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Vol.4 クラブ初体験


20世紀のことですでに時効かとも思うので、ぼくの銀座クラブ初体験の話を書いてみよう。

イベント屋として幕張メッセや東京ビッグサイトなんかでガシガシ働いていたころ、
イベントの華としてステージやブースを飾るモデルやコンパニオンとも頻繁に仕事をした。

21世紀に入ってすでに10年が過ぎようとする今、景気の低迷で企業が
「華やかさ」に対する予算を削減し、男女均等やセクハラ概念の肥大化が、
そういった女性の立ち位置を奪いつつあるのが実情。
個人的には(というか、すべての男性にとっては)とても残念なことだ。

さて、当時「そういった女性といっしょに仕事ができてイイですね」とよく言われたものだが、
何十人という女性と一時的にでも職場を共にするので、その管理者たるもの
誰かひとりでも目をかければ、職場全体の士気が下がることを体験的に知っており、
イベントの成功を第一の命題とするぼくは、そういった感情を半ば封印していた。

ただ、本当に気持ちよく元気に働き、笑顔を絶やさない印象的な女性と何名か出会い、
その「職場」でひいきにすることはなくても、オーデションをパスして
自分の独断で採用を決めたり、目立たない場所でムダ話に興じたりといったことは何度かあった。


そんな女性から、ある日突然相談を受けた。

「お恥ずかしい話なんですが、私は今学校にも通っていて学費を捻出するのに
モデル業だけでは足りず、銀座でアルバイトをしているんです。
本当はそんな仕事やりたくなくて真剣さもないので指名が全く足りず、
このままだとクビになってしまいそう。
で、一度銀座のその店に来て私を指名していただけませんか」というような主旨だった。

銀座のクラブなんて、そんな社会勉強もなかなか機会はないですよ、とか
話を軽めに持っていこうとしていたが、恥ずかしさを精一杯押し殺し、
思い切ってぼくに頼んだ真摯な気持ちを(その時は)感じて、だいたい4〜5万円との提示にも、
ま、彼女には本当にぼくの職場でお世話になっているし、
一度「足長がおじさん」になるのもいいかと決意した。

話は少しそれるが、当日いわゆる「同伴出勤」なるものも初体験。
どんな姿で現れるのかとドキドキしていたら、イベント現場への行き帰りと同様
ジーンズにTシャツといったいでたち。軽く食事の後一緒に店に入ると、
「着替えてきますので少しお待ちください」と、ポツンとテーブル席に取り残される。
で、その時ぼくは電撃的にあることに気づいた。

ひとり心細く座ったぼくの回りを、一瞬にして3人の艶っぽい女性が取り囲み
(以降何度も入れ替わり)、皆さん一斉にシナを作ってご自分のアピール合戦を繰り広げる。
ぼくはただただアゼンとして頷くばかり・・・。

そう、店に入ってすぐにテーブルに付ける格好をしておかないと、自分が同伴した客も、
一瞬にしてライバルに奪われる可能性があるのだ。大変な職場だよ。

ぼくのお相手は、そんなことにまったく無頓着で(それでは指名もつかないよな)
30分ぐらいしてやっと登場。彼女ももちろん美しくはあるけど確かにあの環境では浮いており、
ぼくも男というより保護者の感覚に近かった。

ボーイさんから渡された酒のメニューは圧巻。
ブランデーをメインとしたハードリカー中心だが、界隈の高級フランス料理店でも
ココまでの揃えはないだろうというぐらい、5大シャトーをはじめ、
ペトリウスやロマネコンティまで、強烈なグランヴァンがリストアップされている。

また来るわけもないのでワインにすればよかったと後で後悔したものの、
なんとなく普通のハードリカーを頼み、普通に他愛もない話をし、
普通にいたたまれなくなって何度もトイレに立ち、あっという間に3時間ぐらいが過ぎた。


で、ついに、お支払いの時。

今でもはっきり憶えているが、レシートには、意外なことにビッシリと明細が並び、
最後の合計欄に \108,400- と書かれていた。

ふぅー。ぼくはやっぱり彼女に利用されたのか。
やーバカだったなーとか、いろいろ考えながら機械的にボーイさんにカードを渡しサインをし
店を出た。生まれてこの方、払ったことのない高額の自腹に気もそぞろで、
彼女がその時どんな表情だったのか、帰るぼくを見送りに出ていたのかなど、あまり憶えていない。

ひとりでとぼとぼと新橋駅に向かっていると、いとーさーーんと、
叫んで走ってくるドレスの女性が目に入った。
その姿はモデルとしては実にカッコいいが、銀座の蝶としては多少違和感があってほほえましく、
逆に今でも鮮明によみがえる。

「今日はすみませんでした。私の力では結局お安くすることはできませんでした。
ごめんなさい。本当にごめんなさい」と何度も頭を下げる。
「ん、いや、楽しかったよ。いい経験だったし。心配しないでね。じゃまた「職場」で」。

別れ際に彼女は小さい紙袋をぼくに渡し、これ、お詫びですと、ペコリと深く頭を下げて
きびすを返した。
その紙袋には三越の包装紙の薄い箱が入っていて、きっと店が用意したハンカチかなにかだろうと
あまり気にも留めず帰宅。

ぐっすり眠った翌朝だったか。
今日は10万円のハンカチでも使ってやるかとその小さな包みを乱暴に開けたら、
ハンカチにしてはいやに立派な箱が出てきて、その中にはなんと、
5万円分の三越の商品券が入っていた。


【後日談】

この商品券。なかなか使う気にはなれず、どうしようかと考えた結果、
取引先からもらったことにして母にプレゼントした。
ま、うちのオカンはここは読んでいないと期待するが・・・。


2008 - 04 - 26 - Sat


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  伊藤章良(いとうあきら)
愛飲愛食家。本業はイベント・プロデューサー。20年間休みなく自腹で食べ歩いた経験から、オトナのための本音情報を雑誌、ネットなどで執筆中。

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